炎 と 戦 う 男 た ち

■杉本 公正著 上製本/220頁 定価(本体1,600円+税)送料209円


 推薦します 伊藤 桂一氏
作家・詩人 「螢の河」で直木賞。「静かなノモンハン」で芸術選奨文部大臣賞および
吉川英治文学賞。平成十三年には、恩賜賞、日本芸術院賞を受賞。著書多数。」

 大ホテルの火災と、消火に挺身健闘する消防隊の模様を描いたこの作品は、火災の多いわが国の文芸作品としては、まことに稀有の有益な内容を持っている。万人の必読書といってしまいたいほど、重要な知識に満ちている好著だと思う。
 この作品の作者は、長年消防隊に身を置いて、底辺の仕事から幹部の立場での雑事まで、さまざまな経験を積んで来られ、定年のあと、火災の怖さと、消防の重要性を、ぜひとも多くの人に知ってもらいたいとする熱意と情熱で、この一巻をまとめられたものである。
 この本は、しかし、堅苦しい、教条的な記述は一切避けて、経験者が、読者諸氏に、多くのエピソードを交え、火災の怖さと、消防隊の苦労を、わかりやすく、読みやすい方法で語ってゆく。消防と消防隊の仕事については、これ以上にはない行き届いた記述である。ホテルの自動火災報知機、自衛消防隊、スプリンクラー設備、建築と新建材、人命救助の方法、救出隊の行動、火災の事後の諸問題など、消防法等の実例入解説ほか、作者の体験が充二分に下敷となっているので、実感が全篇をしっかりと潤している。
 とかく、軽挑浮薄な話題の多い現代に、このような本の読まれることは嬉しい。これは消防小説であるとともに、火災、消防、ひいては人間の生き方をも教えてくれる、貴重な一巻だと思う。

■ 主 な 目 次 ■
第1章 潜在火災危険
・生と死/査察/乗っ取り王/息子の結婚/火災危険と法律の限界/オーナー会議と狸社長の正体/適マークのないホテル ほか
第2章 墜落する人続出
・静かに迫る火災/空白/炎が背後に/一挙に延焼拡大/現場指揮本部/先着消防隊の活躍/避難路の確保/決死の救出隊編成/救出、避難最優先 ほか
第3章 決死の救助
・飛び降りる者続出/炎と戦う男/エアーマットが命の綱/猛火に追われ、庭園が美しい安楽の花園/永遠の愛を求めて死の決意/煙と焔に包まれた遠藤たち ほか
第4章 渦巻く猛火
・前進指揮所/遠藤と美恵子の救出/宿泊者の命より息子の安否を気遣う鮫島/危険な救出作戦の断行/三方向への延焼防止/黒い焼け跡に哀しい影 ほか
第5章 命の恩人
・負傷しても満足感/富豪の夢/記者会見/予算委員会/親と子/所有者と防火管理者 ほか
第6章 東尋坊の危機
・陰謀/芦原温泉3億円の怪/吉岡警部/水口、東尋坊の危機/息子の死による鮫島の衝撃と苦悩 ほか
ホテルの九階の窓から、炎と煙に追われ、地上めがけて次々に飛び降りる女性達と、決死の救出に挑む消防隊。
 ―火災現場への出場回数、三千回を超える著者のみに描ける、スリルと臨場感。そして、涙と葛藤。
 正義感に燃え、純真に法を守ろうとする若い消防士たちと。―富豪の夢を懐き、政界、財界に君臨しようと、ホテル経営を呪縛し続けた、老獪な男を描く、壮大なドラマ。
この文芸作品は、ホテルニュージャパンの火災を基にしたフィクションです。